東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)5号 判決
本件の特許庁における手続の経緯、本願意匠の構成および審決理由の要点が原告主張のとおりであること、引用意匠の意匠に係る物品、登録出願および拒絶査定の年月日が審決認定のとおりであり、右拒絶査定が確定したことは当事者間に争いがない。
そこで、原告主張の審決を取り消すべき事由(一)の有無について判断するに、甲第四号証の二および三が引用意匠の意匠登録願書に添附された図面代用写真であつて、同号証の二が引用意匠の正面図および右側面図を示し、同号証の三が平面図および底面図を示すものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いがない同号証の一によれば、右願書には左側面図および背面図の図示は省略されていることが明らかである。そして、右甲第四号証の三のうちいずれか一方の写真(例えば平面図を示す写真)と同号証の二だけによれば、引用意匠の内容を審決認定のとおり認定することができないことはない。しかし、右甲第四号証の二によれば、引用意匠の上面(平面)において凸出している部分と反面(底面)において凸出している部分が互い違いになつていることが明らかであるのに対し、前記同号証の三によれば、平面図および底面図を示す写真は、これを虚心に見れば、凹凸の関係が同一であるから、引用意匠の上面(平面)において凸出している部分は反面(底面)においても凸出しているものと認めざるを得ない。したがつて、引用意匠の平面図および底面図を示す写真は正面図および右側面図を示す写真と相互に矛盾していることが明らかであるところ、引用意匠の内容は右の四枚の写真に矛盾なく表現されているべきであつて、そのいずれかを重視し他を無視してこれを認定することはできないから、引用意匠の内容はこれを客観的に確定することが不可能であるといわねばならない。被告は、右各写真が一個の形態を表現したものであるとの前提に立つてこれを見れば、平面図および底面図を示す写真は凹凸の関係が逆であるとみるべきである、と主張するが、意匠登録願書に添附する図面代用写真は一個の物品の形態を表現すべきものではあるけれども、現実に願書に添附されたものが必ず一個の物品の形態を表現しているとはいえないことはいうまでもないので、図面代用写真は被告主張のような前提に立つてこれを見るべきではなく、むしろ、一切の先入観を排除して虚心にこれを見るべきであるから、被告の右主張は採用の限りではない。そうだとすると、引用意匠の内容を前叙のとおり認定したうえ、本願意匠はこれに類似すると判断し、意匠法第九条第一項により登録することができないとした審決は、原告主張(一)の違法があり、取消を免れない。よつて、その余の争点についての判断を省略して原告の請求を認容する。
〔編註その一〕本件における当事者の主張は左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は請求棄却の判決を求めた。
第二 請求原因
一 本件の特許庁における手続の経緯
原告は昭和三七年八月一六日特許庁に対し意匠に係る物品を卵容器とする別紙図面記載の意匠につき登録の出願をしたところ、昭和三八年四月三〇日拒絶査定を受けたので、同年六月一四日審判を請求した(昭和三八年審判第二五〇一号事件)。特許庁はこれに対し昭和四二年一一月二五日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年一二月二三日原告に送達された。
二 本願意匠の構成
上面は円錐柱を、反面は下半部に突堤を四方に一定間隔おきに形成しかつ各突堤間を弧状凹入壁をもつて連結した据わり柱をそれぞれ縦横一定間隔おきに設け、上記円錐柱、据わり柱の内面はそれらを逆転形にした逆円錐柱孔、逆据わり柱孔になし、また上面において円錐柱に取囲まれた中間には逆据わり柱孔を、反面において据わり柱に取囲まれた中間には逆円錐柱孔をそれぞれ配設し、上面および反面において円錐柱、逆円錐柱の周縁を環状水平部をもつて囲周し、さらに各環状水平部を直線状水平部をもつて縦横に連結し、全体の周縁中央部に水平の鍔部を形成させたもの。
三 審決理由の要点
既に拒絶査定の確定した昭和三六年意匠登録願第一七一八号の意匠(意匠に係る物品鶏卵破損防止板、昭和三六年二月一日出願、昭和三七年九月二九日拒絶査定。以下「引用意匠」という。)の要旨は、全体を正方形状にし、その中央前後縁を波形状に湾曲させ、平面の全面に、円錐台形容体状にした突設部を格子状に配列し、この突設部の下方を、前後左右より筋条で連結したように表わして、全体として格子状筋条の交叉部に円錐台形容体状にした突設部を配したように表わし、この筋条および突設部の下辺にそつて水平状に僅かの余地を残して中央に逆円錐台形容体状にした凹設部を設けてなるものである。
そこで、本願意匠と引用意匠を比較してみると、両者は、全体を四角形状にし、その全面に格子状筋条を表わし、その交叉部に、円錐台形容体状にした突出部を設け、この筋条および突設部下辺で囲まれた部分を凹ませたように表わして、その底面を円形とした凹設部を設けた全体の構成態様において共通点をもつものである。
しかしながら、これを具体的に観察してみると、本願は突設部基部に巾狭い水平状鍔部を設けて、この鍔部と筋条上面とが同一平面になるようにし、この部分をやや垂下させたように表わしたものであるが、引用意匠にはこの鍔部がないため、筋条が直接突設部下辺の周壁に突当つたように表わされていて差異があり、さらに凹設部の上端縁が、本願は縦横の棒状体の各端面を結ぶ線を弧状にした十字形状であるのに、引用意匠は円形であつて差異があるが、これらの差異点は、その部分のみをみれば顕著であるということもできるが、前記した全体の構成態様にくらべれば微差と認めざるを得ない。その他、全体を四角形状とした形態の縦横の長さの割合とか、その端面の一部に表わされた波状部の有無とか、凹設部、突設部の半截形が引用意匠にない点の差異とかは、いずれも全体からみれば小さな部分の差異であつて、あまり目立つた部分でないので微差と認められる。
以上述べたとおり、両意匠を物品全体として観察した場合においては、突設部、凹設部、筋条よりなる構成態様が最も看者の注意を惹く支配的要部と認められるから、前記したような差異点があつても、両意匠は類似であることを免れない。したがつて、本願意匠は意匠法第九条第一項により登録できないものである。
四 審決を取り消すべき事由
引用意匠の意匠に係る物品、登録出願および拒絶査定の年月日が審決認定のとおりであり、右拒絶査定が確定したことは争わないが、引用意匠の要旨が審決認定のとおりであることは争う。本願意匠が、(1)全体を四角形状にし、(2)その全面に格子状筋条(前記二の用語では「直線状水平部」に該当する。以下括弧内は該当する二の用語を示す。)を表わし、(3)その交叉部に円錐台形容体状にした突設部(円錐柱)を設け、(4)筋条(直線状水平部)および突設部(円錐柱)下辺で囲まれた部分を凹ませたように表わして、その底面を円形とした凹設部(逆据わり柱孔)を設け、(5)突設部(円錐柱)基部に巾狭い水平状鍔部(環状水平部)を設け、(6)鍔部(環状水平部)と筋条(直線状水平部)上面とが同一平面になるようにし、(7)凹設部(逆据わり柱孔)の上端縁を、縦横の棒状体の各端面を結ぶ線を弧状にした十字形にしたものであるとの審決の認定は争わないが、その余の審決の認定は争う。審決は次の二点において事実を誤認し、その結果本願意匠と引用意匠との類否の判断を誤つた違法があるから、取り消されるべきである。
(一) 引用意匠は願書に添附された写真(甲第四号証の二および三)が不明確で、その意匠の内容を確定できない。すなわち、正面図および右側面図を示す写真(甲第四号証の二)によれば、引用意匠の上面において凸出している部分と反面において凸出している部分は互い違いでなければならないのに、平面図および底面図を示す写真(甲第四号証の三)は凹凸の関係が全く同一であり、これによれば引用意匠の上面において凸出している部分は反面においても凸出していなければならない筈である。したがつて、引用意匠の平面図、底面図を示す写真は正面図、右側面図を示す写真と喰い違い、引用意匠はその内容を確定できないから、本願意匠が引用意匠と類似するか否かの判断は客観的に不可能である。しかるに、引用意匠の内容を確定し本願意匠はこれに類似すると判断した審決は、この点で事実の認定を誤つたものである。
(二) 仮りに引用意匠の内容が審決認定のとおりであるとしても、審決は本願意匠の認定を誤り、その結果本願意匠と引用意匠との類否の判断を誤つたものである。すなわち、本願意匠は、逆据わり柱孔(審決の用語では「凹設部」に該当する。以下括弧内は該当する審決の用語を示す。)の上半部に突堤を四方に一定間隔おきに形成したものであるのに、審決はこれを無視している。本願意匠は右のような突堤を形成した結果、円錐柱(突設部)が円滑感を有する整形美を、逆据わり柱孔(凹設部)が頑固感を有する整形美を感取し得るものであつて、本願意匠は両者のコントラストにより全体として独特の美観を呈するものである。したがつて、本願意匠は引用意匠と類似しない。
第三 被告の答弁
本件の特許庁における手続の経緯、本願意匠の構成および審決理由の要点が原告主張のとおりであることは認める。
引用意匠の平面図および底面図を示す写真(甲第四号証の三)は、一見凹凸の関係が全く同一であり、原告主張のとおり、正面図、右側面図を示す写真(甲第四号証の二)と喰い違うようにみえる。しかし、引用意匠は出願意匠であり、右各写真によつて一個の形態を表現したものであるとの前提に立つて右各写真をみれば、平面図および底面図を示す写真は凹凸の関係が逆であるとみるべきである。したがつて、審決の引用意匠の認定には原告主張の違法はない。
本願意匠が凹設部の上半部に突堤を四方に一定間隔おきに形成したものであることは認める。審決は、本願意匠と引用意匠との差異点として、「この部分(突設部基部の水平状鍔部)をやや垂下させたように表わし」と表現したことにより本願意匠が突堤を形成したものであることを認定しているから、これを無視したものではない。そして、突堤は全体に対して小部分の附加であるため、原告主張の美観のコントラストが全体の整然とした構想を破り、全体として独特の美感を呈するものとはいえないから、審決の本願意匠と引用意匠との類否の判断に原告主張の違法はない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
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